長崎に立地する美術館としての使命ーーーー長崎県美術館学芸員 森園 敦氏(8月21日)

『ゴヤからピカソ、そして長崎へ 芸術家が見た戦争のすがた』展について
今回の卓話は、長崎県美術館学芸員の森園敦(私)が同館で開催中の企画展「ゴヤからピカソ、そして長崎へ 芸術家が見た戦争のすがた」について話をします。この展覧会は、長崎県美術館開館20周年、そして被爆80年という節目の年に合わせて企画されました。
長崎県美術館はスペイン美術を標榜することから、スペインの巨匠フランシスコ・デ・ゴヤの版画集〈戦争の惨禍〉を軸にして、そこから抽出した7つのテーマに沿って 展覧会を構成しました。最も長崎に関係する章は、第6章「私は見た-目撃者としての視点」でしょう。この章では、長崎に原爆が投下された当日に軍から派遣され、翌日の長崎市内を詳細に記録した写真家の山端庸介、画家の山田栄二、そして詩人の東潤が特集されました。彼らは長崎原爆を最初に表現した芸術家としてこの展覧会では扱われています。そしてこの章ではさらに被爆者たちの作品も特集されています。池野清と池野巖の兄弟は、清が長崎で、巖が広島で、それぞれが入市被爆しました。彼らの絵画は色彩は抑えられながらも、画面に宿る力強さが印象的です。
また第7章「記憶の継承」は、被爆者が次々と亡くなっている昨今、未来を生きる我々にとって被爆の記憶の継承は可能なのかという問題を美術の側面から考察するという意欲的な章となりました。ここでは長崎にゆかりの深い現代彫刻家である森淳一と青木野枝が取り上げられました。彼らの作品もまた、暴力そして戦争に対する抵抗が 息づいています。それは原爆を起点としながらも、現在行われている戦争にも訴求するものといえるでしょう。
今回の展覧会は、長崎に立地する美術館としての使命を果たすべく企画しました。長崎の人たちに見てもらうために企画しましたので、ぜひご覧いただければと思います。